地球語便り [変化の時] 2010年1月

寒中お見舞い申します。
新年のご挨拶と一緒にと計画したメールでしたが、
引越しの荷造りなどに追われて、気がつけばお水取りが近づいてしまいました。
それぞれにとっていい春となりますように。

今回のタイトルの「変化」は、発想から21年目の昨年からの
地球語と私の関係の変化を意味します。
私の手から地球語を解放し、
地球語から私自身を解放することに決めました。
今回は昨年の報告に加えて私自身へ宣言みたいなメールですが、
お付き合いいただけるとうれしいです。

身体的にやってきた転換 . ダダと地球語 . 結び . 2009年の地球語サイト . 自然の中へ . あなたの手へ

冬の草 土中から見つめる目

[身体的にやってきた転換]

地球語は、多くの協力があって育ちましたが、私に関して言えば
2つの面に支えられました。1面は宇宙の真実・美を
どこまでも追求したい心、他の1面は義理堅さ、
時代や社会への義務感の強さ。
「パールハーバー・デー生まれだからといって核を持った時代に
個人的に責任を感じるなどとは思い上がりだ」と
若者からお叱りのメールもいただきましたが、
何事も最初は一人からです。
大戦争を幼児期に潜った者としては、
果たすべきことを探りたくなるのがより自然でした。

記号作成にあったっては、自然のしくみから
大いに学び楽しみました。
ですが伝達手段としての地球語は「普及」によって
より本分を発揮します。しくみが固まった後の普及も
創案者の責任と考え、正直、大変無理しました。
昨年も春までは義務として頑張りました。
(2009年サイトの報告は下に)

ところが普及運動の準備段階で、
酷使してきた視神経が反乱を起こして続行できなくなったのです。
私の長時間コンピュータ・ライフはそうは長くないことを悟りました。

地球語は、ひとつの記号セットだけで
文化や身体の基盤の違いを超えて
あらゆる地球人の交流を開く潜在能力を持ちます。
表意・表音だけでなく手話・点字の役目や
ロゴ・類別や略記表現・個人的な暗号作成まで何でもこなします。
相対性原理には及びませんが、
たった91記号で森羅万象を捉え、母語に不可能な伝達を
全て引き受ける地球語の構造は、
それでいながら他言語に比べるとシンプルです。

ところが実はその前代未聞の多機能さが
「複雑」の印象を与えて普及のネックになっていると
数年前から悩みました。
情報や映像の氾濫によって加速的に多忙化する現代人は
「複雑」を嫌います。私も例外ではありません。

[ダダと地球語]

上記のディレンマに触れて、ロンドン留学中のイタリー人グラフィック学生
マテオ・ペロさんから最近彼の論文「イメージのアルファベット」が
そのポスターとともに届きました。私へのインタビューも含め、
理想言語の代表として地球語に大きな紙面を割きながら、
彼は要約すると次のように説いています。

WW1時代に起きたダダイズム(既成の秩序や常識を否定・破壊する思想)運動が伝統言語や文法などの構造体も壊した。大戦争の破壊の反動で、未来に理想社会を求めてエスペラントや地球語が生まれたが、それらもルールや構造を持つものであり、ダダの流れの中では活用されず理想社会も招くことはできない。共通伝達手段としては、文法を持たないシンプルな絵文字の Isotype が蘇って息づいているのは、それが言語的構造を持たず、何の理想社会も求めていないためである。
(私個人を紹介する部分には間違いや誇張がいくつかありますが、論旨は興味深いのでこのPDFファイルを地球語サイトにも原文のまま当分置きます。興味のある方は目次ページからダウンロードできます。)

なるほど私は、地球上のヒト社会がもっと丸く回れるための
共通基盤として地球語を発想しました。
だからといって理想社会に近づくために
地球語開発に参加しろと呼びかけるのは、
順序が間違っていたかもしれません。
現代人は思い思いの向きで生きてます。
地球語は単に伝達手段。目標世界など説かずに
パソコンのように勝手な向きに自由に使い出せたほうが
取りつきやすいですね。遅まきながら教えられました。

けれど、マテオさんの地球語の理解に対しては異論もあります。
私はダダを潜り抜けてから地球語を発想しました。
明快な構造を持つ地球語ですが、
その構造にダダ的な要素も内臓されていると私は思っています。

自然界ではものみなカオスへ向かいます。
けれど命あるものは秩序を持つ構造体をなして生まれ変わります。
大きな滅びの後にはこれまでとは違う
進化した構造体が生まれました。
地域文化ベースの言語が立ち行かなくなれば、
人々は地球自然ベースで新しい思考をはじめます。
地球語は多機能に進化した構造をもつのです。
ヒトが構造美に感動できる動物であるという
性質が変わることはないでしょう。

地球語シンボルのしくみは、伝統言語や既成言語と異なって、
無限に広がる空間性と身体中の感覚を巻き込む素質をもち、
ニューロンのつながりを頭の外に出して
目で確かめるような感じで思考を進めます。
ダダやジャズやモダンアートによって
身体の原始感覚を思い出した人々は、
やがてその重ねつなぎの妙にも目覚めるでしょう。
彼らは、理想社会建設のために無理して
共通語を学ぶという態度ではなく、イメージを自在につなぎ
分解し多様に展開する地球語という水晶球の中に、
果てしない遊びを見出すのではないでしょうか?

勿論理想社会を求める人々がもしあれば
地球語はそれを助けます。それに向かって
最も喉から手が出そうなのは、少数民族や身体障害者などの
マイノリティーたちでしょう。彼らが手を携えて本気で
地球語運動を起こせば、現常識の世界をがらりと
変える可能性もあります。また、組み壊しが自在で、
過去にゴミのように捨てられた知恵のコラージュである点からも、
地球語はダダ的要素を内包した構築物といえるのではないでしょうか?


ところで、昨年初対面のアメリカ人たちからは、
「未来の伝達手段は言語ではなくテレパシーだよ」と
同じようにいわれました。伝統言語が否定されたからって、
いきなりヒトがエルフのようになれるのでしょうか?
地球語のシンボルをテレパシーで送ることなら、
もしかして可能性があるかも?実験してみたいです!

[結び]

雲開く 懐古の糸たば空へと放つ

私の拠点は、この春からワシントン州に全面的に移転します。
2009年中ごろからは引越し準備の整理作業に明け暮れました。

そんな中、戸棚の奥から手紙の束が出てきました。
地球語などという途方もない放蕩を早くやめて
絵にもどれと訴える航空便。
さらに古く1987年の渡米時に持参した日本での
思い出深い手紙。染色画家時代には
墨書や絵入りの激励の手紙を多くの方が下さいました。
Eメール時代とのぬくもりの違い、時代の移ろいに涙しました。

中に『出雲国風土記』の注釈本で著名な加藤義成先生の
達筆な短冊とお手紙もあります。
「私は古代びとの心を未来につなぎたかったのに、
風土記の道案内をしただけで人生を終えようとしている、
私のやりたかったことがあなたならできる、
あなたに託したい」と、死の床で私に向かって正座合掌して
涙をぼろぼろこぼされた先生のお姿が、今も脳裏に焼き付いています。

当時私は加藤先生の著書を手に出雲地方を巡り歩いて、
古代世界を描き、エッセイを書いていました。
原始的な 火きり神事や大しめ縄などさまざまな慣わしによって
古代びとはいったい何を後世に伝えたかったのだろう?
誰に尋ねても「理由なんか知らんよ。伝統だから」・・
謎を追ううちに出雲の空から聞こえました。
「異なるもの同士の結びこそが
新しい命を燃やし創造を産み、未来繁栄の元。
結びに籠もるスピリットを忘れないで」と、
縄文時代の原出雲人のメッセージ。

故加藤先生のご期待に少しでも報おうと、
渡米前に出雲古代世界の物語『カモス』を出版しました。
ですがそれで終わらず、結びのメッセージは
アメリカにまでも私にくっついてきました。
日本を離れて身体で感じた東洋と西洋の違い。
これをつなぐ方法はあるのか?
先を競う人々にどうすれば原始の声が届くか?
未来世界を開く鍵は、そんな大きなギャップの
つなぎにありそうに感じられました。
地球語は、この思いから誕生した「結びの道具」です。


地球語の発展は次世代にお任せして、
私個人は、単に一利用者として地球語の「結び」の海を
命あるかぎり探検したい・・と思うようになった次第です。

[2009年の地球語サイト]

4月まではガンバリました。
1. オバマ大統領の就任演説の中の固有名詞も含む複雑な部分を地球語訳。:
http://earthlanguage.org/mininews/Obama.htm

2. 絵解き字典に方向や形体に関する象形記号を画像でわかりやすく。http://earthlanguage.org/illust-dic/direction6.htm

3. 短詩の地球語訳コーナー10周年記念に、自然要素をキーとして表現する地球語の立場から俳句について考えを述べる。賛否両論の反響がありました。
http://earthlanguage.org/poem/0309haikuground.htm


4. 経済危機にあたって、方向チェンジへの手段として地球語にできることを探り提案。
http://earthlanguage.org/Ge-brief/change-j.htm


5. 日本語と英語のインターネットサークルで Undo the Tower of Babel(多様性を護りながら世界をバベルの塔以前のひとつにもどす運動)の手段として地球語の普及を呼びかけ、上記1・2・4も紹介、記号のしくみの絵解き連載を開始。

ここで視神経(脳)・視力の異状からコンピューティングの続行が困難になり、
コンピュータから離れて視力の自然治癒療法の学習実行に移りました。

自然療法の結果、視力は想像以上に自己調整できることを初めて知りました。
また、ヒーリングに必要な集中とリラックスを瞬時に呼び込む心の操作には、
地球語のシンボルが単純に役立つことも判明。
体系的に働くシンボルの医療や心理面への応用は計り知れないと想いました。
言語は、他者との交流のためのみならず、まずは自身を知り、
身体と深くコミュニケートする手段であるという原点を再認識した次第です。

6. 目の健康回復のための方法(1〜6章)
上記の私のトライの公開。ドライアイや白内障を予防し、
いい視力を保つご参考になれば幸いです。:
http://earthlanguage.org/M-exercise/me-label.htm

[自然の中へ]

地球語サイト詩のコーナーで2002年7月から断続的に
「森が教えてくれたマンダラ」というエコ・シリーズを連載しました。
それらの記事のほとんどはサンフランシスコで書いたのでしたが、
今度引っ越す先はその森です。

昨秋は入居準備のためWAの家で肉体労働三昧でした。
大工・屋根や樋の大掃除・森の小道造り・落ち葉の山を築いて
今春からの畑作に備える土作り・・
机に向かうより肉体労働が大好きな自分を発見しました。

そこでの俳句 [Earthworm Meditation](ミミズ瞑想)より:

a pipe to tie
universe and earth;
the intestine is her brain

宇宙と大地をつなぐ管 腔腸の脳

coiling up
to infinite,
she holds pitch dark ease

丸まれば永遠 黒の安らぎ

sincere gratitude
devouring rotted bodies,
to have earth for new lives

感謝一途 死体を喰い新生の土を産み

the keys turn
to support lives on earth,
elastically

陸上の命支える鍵くねる しなやかに

hoeing,
haiku from earth
washes my brain

鍬が打つ土中から俳句 脳洗う

shovel speaks
about each wet
leaf's emotion

シャベルは喋る 濡れ落ち葉それぞれの気持ち

 ・・hoo


森は瞬間瞬間に表情を変えながら命の源を見せてくれます。
私への森の授業は、まずミミズ先生からはじまりました。

このような俳句が湧くこともありますが、
短詩の地球語訳や文字絵や俳画を作るうちに、
ことばや文法を使わないでシンボルの
重ねだけで表現する詩を探りたくなっています。
マウスを筆に持ち替え、
ときには大昔の象形文字も参加させて。
また森の木々の底、身体中で記号になりながら。
それらは他者にどのように伝わるでしょうか?
引越し後の私自身は地球語の普及活動から離れて、
存分にシンボルの海の深みにはまってみようと思います。

[あなたの手へ]

地球語ウェブサイトの更新は少なくなりそうですが、
オリジナル案としてできるかぎり維持します。
しくみ・字典・使用例などはいつでも
お好きなところからお好きなだけご活用ください。

たとえばある部門の学名設定、日本語または特定外国語の
発音を教えるために特化した表音表記、
身体記号を使ったダンスその他の創作・・

そしてそれを他とシェアしたくなれば、
地球語サイトへリンクした上で
それぞれの分野やメディアでどうぞご自由に。
Web2式の議論の場ができるといいですね。
ご質問にはできる限りお答えするつもりです。


今後とも地球語をお見守りくださいませ。
最後までお読みいただきありがとうございました。

Yoshiko McFarland: hoo

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